純資産の構成要素


純資産の構成要素には、様々な項目が存在していますが、財務諸表を読み

こなすためにも、これらの項目の内容についての理解は必須といえます

ので、それらについて解説したいと思います。


純資産とは、株主が出資した金額とその金額を利用して獲得した利益を

内部留保した金額等の合計のことで、バランスシートの右側の項目です。


この勘定科目は、貸借対照表の資産合計から負債合計を差引いて計算することが

できます。


純資産の英語表記は、「 amount of net asse」、「net asset」、

「total equity 」となります。


この勘定科目は、財務の5つの構成要素の1つであり、簿記の5つの要素の1つ

として紹介される資本は同様の意味です。


また、経理部に所属されている方でもない限り、簿記の知識が無い方の中には、

総資産と純資産を混同されている方が多いようです。


総資産と純資産の違いは、この2つの内容を確認すれば分かりますので、両者の内容に

ついて確認すると、総資産は、資産と負債の合計ですが、純資産は、資産から負債を

差し引いた金額のことなので、全く異なることが確認できます。


会社法においては、株主資本、自己資本、純資産の定義が異なっており、

それぞれの内容は下記の通りです。


会社法における定義

①株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式の合計。
②自己資本は、株主資本、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、
土地再評価差額金、為替換算調整勘定の合計。
③純資産は、自己資本、新株予約権、少数株主持分の合計。


新会社法の施行前は、純資産=自己資本=株主資本でした。


ちなみに、全部純資産直入法とは、その他有価証券の評価差額の会計処理方法で、

全部純資産直入法以外には、部分純資産直入法があります。


また、この勘定科目は、企業価値評価の際にも利用され、その企業の評価方法

には、1株純資産(BPS)、PBR(株価純資産倍率)、Qレシオなどがあり、それぞれ

の内容は下記の通りです。


純資産を利用した企業の評価方法

①1株純資産(BPS)とは、企業の資産から負債を差引いて計算された
株主資本を、発行済株式数で割り1株当りの純資産の金額を計算します。

②PBR(株価純資産倍率)とは、株価を1株純資産で割って算出したもので、
PBRは1株純資産の何倍まで株価が買われているかを示します。

③Qレシオとは、PBR(株価純資産倍率)の指標に、純資産の含み損益を
加算して計算し、時価ベースのPBRを算出したもので、Qレシオは
実質株価純資産倍率とも呼ばれています。


税法においても、純資産価額方式という株式の評価方法があり、

この評価方法は、取引相場のない株式を評価する際に、課税時期においての

正味財産に基づいて、株価の評価をする方法のことです。


尚、劣後債や劣後ローンは 一般債務を返済した後に返済される債務なので

自己資本に近い性格を持ち、銀行などの金融機関は、一定割合の劣後債や

劣後ローンを自己資本に算入することができる為、実質的な資本の増強で

あっても希薄化も回避できることも要因となり、劣後債や劣後ローンの発行は

金融機関が多くなっています。


ちなみに、対外純資産とは、海外に保有する対外資産の金額から海外に対する

対外負債の金額を差し引いた金額のことであり、日本は、対外純資産国です。


次に、純資産の部を構成する主な勘定科目の解説を致します。


・資本金

資本金とは、株式会社が自己資本を資金調達する為に、

株式を発行し投資家から集めた資金のことです。


簿記において資本金は、会社が株式を発行し投資家から払い込みを受けた金額

のうち、資本金として繰り入れた金額を処理する資本の勘定科目になります。


この勘定科目は、バランスシートにおける純資産の部を構成しています。


当然、資本金が増加することは好ましいことであるため、増資をする際は、

多額の資金調達が出来るように、中期経営計画と外部環境も考慮して作成した

資本政策に拘らず、その時の自社の株価が非常に高い評価を得ている時に実行

することが重要です。


自社の株価が高い時に増資を実行できれば、結果として自社の財務基盤を安定

させる資本準備金の増加にもつながり、希薄化も最小限で押さえることが出来る

ため、既存の株主のデメリットも緩和できます。


また、資本金を減少(減資)させるときは、株主総会の特別決議が

必要となります。


そして、資本金が大きいからといって、安心して取引を出来る会社とは限りま

せんので、この金額だけで与信の判断を下すことは出来ません。


また、資本金は会社法の改正により、最低資本金規制特例制度は

廃止されたため、1円からの出資で会社設立が可能となっています。


そして、会社法による大企業の基準は、資本金が5億円以上の企業で、

法人税法による大企業の基準は、資本金が1億円以上の企業になります。


税制面でも大企業と中小企業では大きな違いがありますが、

税務上で大企業と中小企業のどちらが有利なのかは一概にはいえません。


尚、一般的に企業規模は資本金だけでは判断できないため、

業種別に、売上高、従業員数等で判断して企業規模を判断することになります。


ちなみに、中小企業庁では、業種分類毎に中小企業者と小規模企業者の定義が

明確にされていますので、中小企業庁の定義で中小企業者と小規模企業者に

該当しない企業が、大企業とみなすことも出来ます。


・株主資本

株主資本とは、一般的には、株主が出資した金額とその金額を利用して

獲得した利益等を内部留保した金額の合計のことや貸借対照表の総資産合計

から負債合計を差引いた資本の部の合計のことを指しています。


この勘定科目は、自己資本や純資産とも呼ばれていますが、会社法においては、

これらは、明確に区別されています。


この株主資本が企業の総資産と比較して大きい企業は、財務内容が安定している

企業と見ることができるため、企業の与信を判断する際は、資本金の金額だけ

で判断するのではなく、この金額で判断すべきです。


また、株主資本の金額が多ければ多いほど株主の持分もそれだけ多いことになり、

株主資本は、1株純資産(BPS)を算出する基になる金額でもあり、資金繰りの

観点からも株主資本が充実することは好ましいことです。


ただし、株主資本の金額が正確な企業の純資産を表していない場合は多い

のが現状です。


企業の正確な価値を表わしていないケースとしては、下記の通りです。


①不動産や未上場企業の株式を多額に保有している場合

②粉飾決算をしている場合

③隠れた不良債権が多額にある場合

④版権等の法的権利がその権利に値する金額で評価されていない場合

⑤簿外負債がある場合


要するに、上記の項目は、貸借対照表の資産と負債が正確な時価になって

いない場合です。


また、株主持分に対しどれだけのリターンを生んでいるかを示す指標として、

株主資本利益率(ROE)がありますが、株主資本利益率は財務レバレッジを

効かせることで改善することが出来るので、企業の真の収益力を見る場合は、

株主資本利益率よりも総資産利益率(ROA)を見るべきです。


・資本準備金

資本準備金とは、株式会社が株式を発行して株主である投資家が

払込んだ金額のうち、資本金として計上しなかった金額を処理する

資本の勘定科目です。


株式の発行価額の2分の1迄を資本準備金とすることができ、

資本準備金は、資本剰余金に含まれており、バランスシートにおける

資本を構成する一つです。


また、この勘定科目を取り崩す為には、株主総会の普通決議が必要となり、

取り崩して使用する目的は主に下記の様になっています。


資本準備金の取崩目的

①会社の欠損金を補填する為
②資本金への組み入れの為
③配当原始にする為(資本金の4分の1を超える部分)


尚、資本準備金の取崩に、株主総会の普通決議が必要な理由は、

債権者利益を保護することを目的としているからです。


・資本剰余金

資本剰余金とは、資本取引から発生した剰余金で、資本準備金と

その他資本剰余金に区分されています。


この勘定科目は、貸借対照表の自己資本を構成する一項目で資本準備金と

その他資本剰余金の合計額であり、資本剰余金は、バランスシートにおける

資本を構成する一つです。


また、資本剰余金の中の、資本準備金とは株式払込金額のうち

資本金としなかった金額等です。


そして、この勘定科目の中の、その他資本剰余金とは、資本金減少差益

(減資差益)、資本準備金減少差益、自己株式処分差益等です。


そして、資本剰余金を増加させる自己株式の処分に関しても、

基本は自社の株価が非常に高い評価を得ている時に実行することが、

自社の財務基盤を安定させる事にもつながるため、自社の株価の動向と

自社の現在の企業価値を常に把握しておくことは、非常に重要です。


・利益準備金

利益準備金とは、債権者保護の目的の為、企業活動により稼得した

利益のうち内部留保すべき金額が法律で義務付けられているものです。


この勘定科目は資本準備金とともに、会社法で定められた法定準備金であり、

利益準備金は、利益剰余金に含まれ、バランスシートにおける資本を構成する

一つです。


また、利益準備金が計上されるケースは、剰余金の配当等を支払う場合で、

その配当金額等に10分の1を乗じて算出した金額を、利益準備金と資本準備金の

合計で計上する必要があります。


そして、この勘定科目が増加することは、資本準備金の増加と同じく

企業の財務の健全性が増すことになり、この金額が増加すれば

結果として債権者の利益を保護することにも繋がる為、利益準備金は

会社法では積み立てが義務づけられている法定準備金なのです。


ちなみに、会社法では資本準備金と利益準備金を区別して規制することが

廃止されていますが、貸借対照表の表記では、資本準備金と利益準備金の

区分は残っています。


尚、利益準備金の取崩に、株主総会の普通決議が必要なのは、

債権者利益を保護することを目的としています。


利益準備金の取崩目的

①会社の欠損金を補填する為
②資本金への組み入れの為
③配当原始にする為(資本金の4分の1を超える部分)


・利益剰余金

利益剰余金とは、企業が損益取引により生み出した剰余金のことです。


この勘定科目は、利益準備金とその他利益剰余金の合計額で構成され、

利益剰余金は、貸借対照表の資本の部を構成する一項目なのです。


そして、利益剰余金の中の、その他利益剰余金とは、企業が任意で獲得した

利益の一部を取締役会等の決議に基づき設定される任意積立金等と、

当期純利益と前期からの繰越利益の合計金額である繰越利益剰余金のことです。


また、利益剰余金に含まれる任意積立金とは、企業が任意で利益の一部を

内部留保したもので、任意積立金は、役員退職金積立金や海外投資等損失準備金

などの特定の目的の為に積み立てる場合と、特定の目的ではない場合は

別途積立金の名称で区分されます。


・別途積立金

別途積立金とは、内部留保した利益のうち、特定の目的を持たない

任意積立金のことを示す資本の勘定科目です。


この勘定科目は、法律によって積み立てが義務付けられておらず、この金額の

積立て又は取崩は、会社法の剰余金の処分に該当し、別途積立金は、

バランスシート上では、純資産の部の利益剰余金に分類されます。


この別途積立金は、株主総会の決議により積立て又は取崩をすることが

できますが、株主総会では、剰余金の処分の件という議案を総会に付議し、

増加する金額や取り崩す金額を議案に明記することになります。


また、この勘定科目以外の任意積立金としては、役員退職積立金、

事業拡張積立金、減債積立金、配当積立金などがあり、任意積立金とは、

株主総会の決議により、特定の目的を持ち積み立てる各種積立金と、

特定の目的を持たず積み立てる別途積立金を総称したものです。


そして、別途積立金を積み立てた場合や取崩した場合は、

株主資本等変動計算書のその他利益剰余金の変動額として

表示することになります。


尚、この勘定科目以外の目的がある任意積立金を、目的のために

取崩す際は、目的に沿った取り崩しの為、株主総会の決議は不要で、

取締役会で決議したうえで取崩すことができます。


ちなみに、別途積立金以外の目的がある任意積立金を取崩す仕訳を

する場合は、積立金の相手の勘定科目は、繰越利益剰余金であり、

その取引は、株主資本等変動計算書に積立金の減少、繰越利益剰余金の

増加として表示されます。


・繰越利益剰余金

繰越利益剰余金とは、株主総会の決議により利益処分対象となる

金額を示す資本の勘定科目です。


この勘定科目は、任意積立金とともに、その他利益剰余金に該当し、

新しい会社法の施行前の未処分利益が変更になったものです。


この繰越利益剰余金は、前期からの繰越利益に、当期純利益、任意積立金

などの取崩、剰余金の配当、剰余金の配当に伴う利益準備金積立額を加減

して計算します。


尚、繰越利益剰余金が、マイナスの状態では配当をすることはできず、

マイナス金額が、その他の任意積立金の合計額を超えているマイナス部分を

欠損金と呼びます。


繰越利益剰余金のマイナス金額が大きく、純資産の部がマイナスになった

状態が債務超過です。


・為替換算調整勘定

為替換算調整勘定とは、在外子会社及び関連会社の財務諸表を

円換算する際に発生する貸借差額を処理する勘定科目です。


為替換算調整勘定は、連結貸借対照表の固有の勘定科目であり、

バランスシート上の純資産の部に計上されます。


この勘定科目が発生する理由としては、在外子会社等の資産及び

負債項目を換算する際の為替相場は期末レートで換算し、在外子会社等の

資本項目を換算する際の為替相場は発生時又は取得時レートで換算される

ためです。


ちなみに、在外子会社等の財務諸表を換算する際の為替相場は下記の通りです。


①資産・負債の項目は、在外子会社等の決算日の為替相場
②株式取得時の資本項目は、株式取得時の為替相場
③株式取得後の資本項目は、発生時の為替相場
④収益・費用の項目は、在外子会社等の期中平均相場


また、為替換算調整勘定の株主資本等変動計算書における表示区分は、

貸借対照表の純資産の部の表示に従い、評価・換算差額等の項目に

表示することになります。


尚、この勘定科目以外で、評価・換算差額等に表示される項目としては、

その他有価証券評価差額金、繰越ヘッジ損益、土地再評価差額金などがあります。


・その他有価証券評価差額金

その他有価証券評価差額金とは、その他有価証券に該当する有価証券の

簿価と時価との差額を処理する勘定科目です。


この勘定科目を計上する際は、税効果会計の適用が必要で、

バランスシートの純資産の部に計上されます。


この、その他有価証券評価差額金を計上する会計処理には、部分資本直入法と

全部資本直入法があり、その内容は下記の通りです。


①全部資本直入法は、その他有価証券の評価差額の合計額を
純資産の部に計上する。

②部分資本直入法は、時価が簿価を上回っている場合は、評価差額を純資産の部
に計上し、簿価が時価を下回っている場合は、評価差額を当期の損失として処理
する。


また、この勘定科目を計上した場合は、翌期に逆仕訳である

洗替処理を行うことになります。


そして、この勘定科目を算定する際の、その他有価証券の時価は、

原則、期末時の市場価格が適用されますが、継続適用を条件として、

期末前1ヶ月間の市場価格の平均を時価とすることも出来ます。


ちなみに、その他有価証券評価差額金の対象である、その他有価証券とは、

売買目的有価証券、1年以内満期保有目的債券、子会社株式、関連会社株式以外の

有価証券のことで、その他有価証券は、投資その他の資産の部に投資有価証券

という勘定科目で表示されています。