建設業の経理予算財務管理


■業界の特徴

建設業における、未成工事支出金等の財務指標に関する予算財務管理について解説

する前に、一般事業会社と建設業の違いを認識するためにも、この業界の特徴に

ついて確認したいと思います。

  • 営業スタイルと建築仕様

    この業界は、受注請負型産業なので、施主である発注者の要望により、建築物の
    規模・構造・デザインが多岐にわたっており、建築物は、クライアントのニーズに応じた、完全カスタマイズ仕様となっています。


  • 工事期間と契約書

    一般製造業と比較すると、施主から受注してから引渡すまでの期間は、遥かに
    長期間であり、1年以上の工期も珍しくありません。

    工期の期間が長期化するので、 経済環境の変化により、資材などの価格が高騰した場合等は、インフレスライド条項と呼ばれている、請負代金額の変更を請求できる措置を、契約書に盛り込むことも珍しくありません。

    現在は、 為替が円安に転換し、人手不足の影響により人件費もアップしており、
    このトレンドは、東京オリンピック開催までは、継続する可能性が高いでしょうから、インフレスライド条項を入れずに、受注契約をすることは、赤字工事発生の原因をつくることになります。


  • 建築現場と効率化

    一般製造業と異なり、この業界は、生産現場が毎回異なるので、一般的に、効率化が難しい業種と言われています。

    しかし、建築工事現場にも、経営の見える化を導入すれば、建築工程のどこに課題が発生しているのかも、時間単位・日時単位で把握できますので、効率化により、
    コストダウンを図り、完成工事総利益率を改善することも可能です。


  • 下請制度

    この業界では、ピラミッド型の下請構造が一般的です。

    元請の企業が、工事全体を取り仕切り、建設種類毎に、基礎、左官、鉄筋、大工
    などの専門業者に外注して、建築物を完成させていきます。

    元請企業が、注意すべき下請制度としては、下請法があります。


  • 公共工事

    建設業といえば、公共工事を連想する位、この業界にとっては、国・地方公共団体・特殊法人からの仕事は、非常に重要です。

    この公共工事を受注するためには、入札に参加しなければなりませんが、入札の
    参加資格を得るためには、経営事項審査の申請をする必要があります。




資金繰りの考え方や適正なWCやCCCを実現する財務計画作成スキルを身に付けたい方

には、弊所の予算作成セミナーの、 基本コースのセミナー がお勧めです。


■業界特有の勘定科目と経理処理

建設業になじみがない方にとっては、未成工事支出金等の、この業界特有の経理に

関する知識が薄い方も多いことでしょう。


そこで、この業界特有の勘定科目・経理処理・予算作成・財務管理について解説したい

と思います。


・未成工事支出金

未成工事支出金とは、建築会社が施主から請負った請負工事契約のうち

未完成の工事原価を示す資産の勘定科目です。


この勘定科目は、一般企業の棚卸資産である在庫に相当し、財務上の運転資金を増減

させる要因となります。


未成工事支出金は、バランスシート上では、流動資産の部に表示するのがルールです。


この在庫である未成工事支出金と仕掛品は同じ性質のものです。


この業界では、建築途中の工事原価が発生した場合は、この勘定科目に集計されることに

なりますので、業種の違いにより未成工事支出金と仕掛品を使い分けることになります。


また、未成工事支出金として処理された工事原価は、工事が完成したら、

当該工事原価をこの勘定科目から完成工事原価へ振替えます。


そして、売上原価を算定する計算式は下記の通りです。


売上原価を算定する計算式

・完成工事原価=期首未成工事支出金+当期総工事費用-期末未成工事支出金


そして、未成工事支出金の消費税は、仕入を行った時が仕入税額控除の時期となり

課税仕入となりますので、消費税の計算をする際は、未成工事支出金の消費税も

含めることになります。


ちなみに、未成工事支出金に交際費が含まれている場合は、この金額に含まれ

ている交際費の金額を、税務上申告調整する必要があります。


また、建設業の総合予算を作成する際のポイントの1つは、製造業の製造予算の作成

要素の一つでもある、仕掛品回転期間に相当する、予算上の未成工事支出金回転期間

を、どのように算定するかです。


予算上の未成工事支出金回転期間の目安になるものとしては、自社の過去の実績や

同業他社の回転期間があります。


しかし、それらの回転期間を算出して、回転期間が何日だったので、

自社の予算の回転期間を何日に決定するという方法では、精度の高い予算の

回転期間とはいえません。


建設業界においても、予算のキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)を算定して、

予算のワーキングキャピタル(WC)を計画する必要があります。


キャッシュコンバージョンサイクルの計算式

・棚卸資産回転期間(DIO)+売掛債権回転期間(DSO)-仕入債務回転期間(DPO)


ワーキングキャピタルの計算式

・WC = 未成工事支出金残高 + 完成工事未収入金残高 - 工事未払金残高


なお、一般的な、BS・PL・CSの予算編成をして予算実績管理ができるようになった

後は、未成工事支出金などの重要なKPI( 重要業績評価指標)を見える化する、

「経営の見える化」に取り組み、プロセス管理を導入して、経営管理体制を強化

する必要があります。


建設業においても、KPI( 重要業績評価指標)を重視して、経営の見える化を導入する

企業は確実に増えています。


・完成工事高

完成工事高とは、建築会社が施主から請負った請負工事契約のうち

当期中に建設工事が完成した金額を処理する収益の勘定科目です。


この勘定科目の収益認識基準は、工事完成基準と工事進行基準があります。


請負工事を引渡した後に、完成工事高に対する補修工事を無償で

行なう契約になっている場合や完成工事の瑕疵担保責任に備える目的の

引当金が、完成工事補償引当金です。


・完成工事原価

完成工事原価とは、建設会社が施主から請負った請負工事契約のうち

当期中に建築工事が完成した工事原価を処理する費用の勘定科目です。


工事中の工事原価は、全て未成工事支出金として処理し、工事が完成したら、

当該工事原価を未成工事支出金から完成工事原価へ振替えることになります。


また、この業界の企業の場合は、業法により工事台帳の備え付け義務があります。


・完成工事総利益

完成工事総利益とは、会社が施主から請負った請負工事契約のうち

当期中に工事が完成した完成工事高から完成工事原価を差し引いて

算出する金額を処理する収益の勘定科目です。


完成工事総利益は、粗利益やマージンとも呼ばれます。


完成工事総利益が増加するケースは、下記の通りです。


完成工事総利益が増加するケース

①受注件数の増加
②受注単価の上昇
③工事原価の減少


①のケースは、受注件数の増加により、完成工事高が増えることで、

完成工事総利益も増加します。


②のケースは、受注単価が上昇することで、完成工事高が増えて、完成工事総利益

の増加に繋がります。


③のケースは、工事原価が減少することで、原価率が低下し、完成工事総利益が

増加することになります。


・完成工事未収入金

完成工事未収入金とは、建設会社が施主から請負った請負工事契約の

工事代金の未回収金額を示す資産の勘定科目です。


建設業の総合予算を作成する際のポイントの1つは、一般企業の売上債権回転期間

に相当する、予算上の回転期間を、どのように算定するかです。


予算上の回転期間の目安になるものとしては、自社の過去の実績や同業他社の

回転期間があります。


しかし、それらの完成工事未収入金回転期間を算出して、回転期間が何日だったので、

自社の予算の回転期間を何日に決定するという方法では、精度の高い予算の回転期間

とはいえません。


・工事未払金

工事未払金とは、建設会社が施主から請負った請負工事契約の

工事原価のうち未払金額を示す負債の勘定科目です。


この勘定科目は、一般企業の買掛金に相当し、工事未払金は、

バランスシート上では、流動負債の部に表示します。


また、この業界の企業の場合は、建設業法により工事台帳の備え付け義務があります。


工事台帳とは、案件毎に、工事名、受注金額、工事の期間、完成工事原価

の内訳である、材料費、労務費、外注費、経費などを記載したものです。


この台帳は、定型の書式があるわけではありません。


建設業の総合予算を作成する際のポイントの1つは、一般企業の仕入債務回転期間

に相当する、予算上の工事未払金回転期間を、どのように算定するかです。


・未成工事受入金

未成工事受入金は、一般企業の前受金に相当し、バランスシート上では、流動負債の部

に表示します。


この未成工事受入金は、工事代金に対する比率が高いほど、

キャッシュフローにはプラスであり、資金繰りを楽にします。


未成工事受入金は、工事の進行状況に応じて、完成工事高に振り替えられる

ことになります。


・完成工事補償引当金

完成工事補償引当金とは、請負工事を引渡した後に補修工事を無償で

行なう契約になっている場合や完成工事の瑕疵担保責任に備える目的の

引当金を処理する負債の勘定科目です。


この勘定科目は、建設業に特有の引当金ともいえるでしょう。


また、完成工事補償引当金は、会計上の費用ではありますが、税法上は

費用(損金)とはなりません。


この完成工事補償引当金を計上する際は、過去の補償工事費の完成工事高に

対する実績率等を考慮して、将来の見積補償額である完成工事補償引当金を

算定します。


また、完成工事補償引当金は、保障期間によって貸借対照表での

表示区分が異なります。


1年以内の保証である完成工事補償引当金は、流動負債へ表示し、1年を越える保証

である完成工事補償引当金は、固定負債へ表示します。


そして、完成工事補償引当金は、債務性のある引当金に該当し、

その他の債務性のある引当金としては、製品保証引当金、賞与引当金、

退職給付引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金などが該当します。


ちなみに、完成工事補償引当金繰入額は、会計上は費用になりますが、

税務上では損金とはなりませんので、税務申告書を作成する際の繰入額の取り扱いは、

別表4の加算項目に完成工事補償引当金否認や完成工事補償引当金認容という名称で

課税所得に加算する必要があります。


・工事完成基準

工事完成基準とは、完成工事高の収益認識基準の1つで、この基準は、

完成時に一括して売上計上する方法です。


企業会計原則では、工事完成基準と工事進行基準の選択適用が認められています。


この収益計上基準を適用する業界には、建設業界、不動産業界、IT業界などがあります。


この工事完成基準を適用していると、企業の正確な実体を表していないことになります。


例えば、大きな赤字案件のプロジェクトを受注していた場合などは、

経営者が巨額の赤字の責任を追及され、株主代表訴訟などになることを

回避する為に、この収益計上基準を利用していました。


そして、赤字決算を避ける目的で恣意的に工事の完成を遅らせて、

表面上は黒字決算であることを装い、大きな利益が見込める事業年度に

赤字案件のプロジェクトの収益を計上するような粉飾決算にも利用されていました。


なお、これまでは、工事完成基準と工事進行基準の選択が可能でしたが、

2009年4月より、原則、開発請負契約プロジェクトは、工事進行基準による

収益計上が原則となりますので、赤字案件プロジェクトの収益計上の先延ばしは

基本的に出来なくなります。


・工事進行基準

工事進行基準とは、完成工事高の収益認識基準の1つです。


この収益計上基準は、工事の完成度合いに応じて工事収益を計上する方法です。


また、長期請負工事契約の場合には、工事完成基準を適用するのではなく、

工事の完成度合いに応じて工事収益を計上する工事進行基準を適用するのが

合理的です。


長期請負工事契約の場合に、工事進行基準を適用する合理的理由は、

契約によって収益が確定し保証されているため、工事完成まで収益計上を

しない事の方が企業の実体を正確に表さないためです。


工事進行基準の適用が原則となる背景には、日本の会計基準を欧米の会計基準に

合わせる目的と、大きな赤字案件のプロジェクトの完成時期をずらすことにより、

赤字決算を意図的に避けるような粉飾決算を防止する目的もあります。


尚、工事進行基準を適用するには、工事収益総額が明確であり、工事原価総額を

合理的に見積もることができ、決算時点での工事進捗度を正確に把握できることが

条件となっている為、これらの条件を満たす、クライアントとの契約内容にしたり、

正確な工事原価の予測と工事進捗の把握方法が企業には必要になります。


■経営事項審査とは

経営事項審査とは、業法第4章の2に規定されている、会社の経営に関する

事項の審査等のことで、建設業許可を得ている企業のみが申請できます。


この規定は、公共工事の入札に参加する建設業者は、国土交通省の審査を受けることを

義務付けているものであり、この審査では、会社の企業規模や経営状況などを

完成工事高などの財務数値に基づき審査しています。


公共工事の各発注機関は、この審査結果である総合評点を含んだ客観的事項と

主観的事項を基に、各要素を点数化し格付のランク付けをして、各建設業者に発注でき

る金額を決定しています。


この審査項目は、建設業の経営者の方や、この業界の経理部で働かれている方にとって

は、実務で必須の内容です。


更に、経審の内容を知りたい方は、「経営事項審査申請代行」の頁をご覧下さいませ。