法定担保物権


■法定担保物権の種類

・先取特権

先取特権とは、債権者が複数いる場合でも、他の債権者に優先して債務の

弁済を受けることができる民法上の権利のことです。


先取特権の読み方は、「せんしゅとっけん」と読むのではなく、

「さきどりとっけん」と読みます。


この先取特権は、特殊な債権を保有している債権者に与えられる法律上の権利であり、

先取特権は、留置権とともに法定担保物権です。


法定担保物権とは、法律の規定により当然に発生する担保物権のことです。


また、先取特権の種類は、債務者がどのような物を裁判所を通じて競売できるかにより、

下記の3つに分けることができます。


先取特権の種類

・一般の先取特権(債務者の総資産を競売できる先取特権)
・不動産の先取特権(債務者の不動産を競売できる特別の先取特権)
・動産の先取特権(債務者の動産を競売できる特別の先取特権)


なお、他の債権者に優先して発行会社の総資産に ついて債務の弁済を受けること

ができる、先取特権がついた債券も存在します。


ちなみに、企業において、各種担保物件に対応する業務は、法務部や総務部の役割です。


・一般の先取特権

一般の先取特権とは、民法306条に規定されている、債権者が債務者の総資産について

他の債権者より優先して弁済を受けることができる先取特権のことです。


一般の先取特権は、共益の費用、雇用関係、葬式の費用、日用品の供給による原因

によって生じた債権を保有する者が持つ権利です。


ちなみに、一般の先取特権と異なり、特定の動産や不動産の財産について他の債権者

より優先して弁済を受けることができる先取特権が特別の先取特権です。


この一般の先取特権である、共益の費用、雇用関係、葬式の費用、日用品の供給

についての内容は下記の通りです。


一般の先取特権である、共益の費用、雇用関係、葬式の費用、日用品の供給の内容

・共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、
清算又は配当に関する費用について権利が発生します。

・雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて
生じた債権について権利が発生します。

・葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額に
ついて権利が発生します。

・日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその
家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給に
ついて権利が発生します。


尚、勤めている会社が破産した場合には、破産宣告の時から遡って6ヶ月分

の賃金と退職金が一般の先取特権になりますが、一般先取特権は、一般破産債権

より債務支払いの優先順位が高いので、未払賃金の回収がある場合は、回収を諦める

べきではありません。


・不動産の先取特権

不動産の先取特権とは、民法325条に規定されている、債権者が債務者の総資産について

からではなく、特定の不動産の財産について他の債権者より優先して弁済を受けること

ができる先取特権のことです。


不動産の先取特権は、特別の先取特権であり、不動産の保存、不動産の工事、

不動産の売買による原因によって生じた債権を保有する者が持つ権利です。


この不動産の先取特権である、不動産の保存、不動産の工事、不動産の売買について

の内容は下記の通りです。


不動産の先取特権である、不動産の保存、不動産の工事、不動産の売買の内容

・不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する
権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用について権利が発生します。

・不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に
関してした工事の費用について権利が発生します。

・不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息について権利が発生します。


尚、同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合の不動産の先取特権

の順位は、①不動産の保存、②不動産の工事、③不動産の売買の順番であり、同一の

不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権

の優先権の順位は売買の前後によると定められています。


・動産の先取特権

動産の先取特権とは、民法311条に規定されている、債権者が債務者の総資産について

からではなく、特定の動産の財産について他の債権者より優先して弁済を受けること

ができる先取特権のことです。


動産の先取特権は、特別の先取特権であり、不動産の賃貸借 、旅館の宿泊、旅客又は

荷物の運輸、動産の保存、動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務、工業の労務

による原因によって生じた債権を保有する者が持つ権利です。


この動産の先取特権である、各項目ごとについての内容は下記の通りです。


動産の先取特権の各項目ごとについての内容

・不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた
賃借人の債務について権利が発生します。

また、不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲は、土地の賃貸人の先取特権については、
その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された
動産及び賃借人が占有するその土地の果実について権利が発生し、建物の賃貸人の先取
特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について権利が発生します。

・旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し、その旅館に
在るその宿泊客の手荷物について権利が発生します。

・運輸の先取特権は、旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用に関し、運送人の占有
する荷物について権利が発生します。

・動産の保存の先取特権は、動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の
保存、承認若しくは実行のために要した費用について権利が発生します。

・動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息について権利が発生します。

・種苗又は肥料の供給の先取特権は、種苗又は肥料の代価及びその利息に関し、
その種苗又は肥料を用いた後一年以内にこれを用いた土地から生じた果実について
権利が発生します。

・農業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の一年間の賃金に関し、
その労務によって生じた果実について権利が発生します。

・工業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の三箇月間の賃金に関し、
その労務によって生じた製作物について権利が発生します。


尚、賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の

動産にも及び、譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても権利が発生します。


不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲としては、賃借人の財産のすべてを清算

する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期及び次期の賃料その他の債務並び

に前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ権利が発生します。


ちなみに、賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けな

い債権の部分についてのみ先取特権があります。


・留置権

留置権とは、他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、

その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる先取特権のような

法定担保物権です。


留置権は、占有が不法行為によって始まった場合には適用されず、

留置権は、民法295条に規定されています。


この留置権の行使と債権の消滅時効に関しては、留置権の行使は、債権の消滅時効

の進行を妨げないと規定されています。


債務者は、留置権の担保となっている物を取り戻したい場合は、その担保になって

いるものに相当する別の担保を提供することで、留置権の消滅を請求することが

できます。


また、留置権者が、留置物について必要経費を支出した場合は、所有者に費用の

償還請求をすることができます。


尚、留置権の具体例を挙げて説明すると、Aさんが、自分のパソコンが故障したので、

パソコン修理の専門店である、Bパソコン修理店に、パソコンを修理に出したとします。


Bパソコン修理店は、Aさんからの依頼により、パソコンを修理し、正常に使用できる

ようになった時点で、Aさんにパソコンを返却することになるわけです。


Bパソコン修理店は、Aさんから、パソコンの修理代金を確実にもらうために、

Aさんがパソコンの修理代金を支払っ時のみに、パソコンをAさんに返すこと

になります。


もし、Aさんが、パソコンの修理代金を支払わなければ、Bパソコン修理店は、

手元にあるパソコンを修理代金の担保として、Aさんがパソコンの修理代金を支払う

まで、自分の手元に置いておけばよく、このようなケースで債務の履行がされるまで、

パソコンを手元に置いておくことができる権利が留置権という法定担保物権なのです。


・抵当権

抵当権とは、債権者の債権を担保するために不動産等に設定する

担保物権のことです。


抵当権は、自己の債権を確保することを目的に設定する権利であり、

抵当権は、民法が定める法定担保物権の一つなのです。


この抵当権は、根抵当権と異なり、住宅ローンの様に、特定の債権に対して

一回だけ使用される担保権です。


また、抵当権は、1つの不動産等に対して幾つも設定することができ、

抵当権を早く設定した順番で、1番抵当権、2番抵当権という具合に

順位がつけられます。


抵当権の状況は、不動産登記簿に記載された、登記事項である土地や建物の

不動産に関する権利関係などの現在の状況を公的に証明した不動産登記簿謄本を

取得すれば確認出来ます。


抵当権は、債務者が債権者に当該債務を弁済すると、その債権の抵当権は消滅します。


また、抵当権抹消とは、住宅ローンを組んで購入したマイホームを売却した時に、

マイホームに付いている抵当権を外すことです。


債務者にその他の債権者から債務があり、抵当権がその他にもある場合は、

消滅した抵当権の下位の抵当権の順位が繰り上がることになります。


また、抵当権は、自社の債権を確実に回収するための権利であるため、

取引先で債権回収に懸念があり且つ大口の債権である場合で、更にその取引先

と今後取引を打ち切る場合等は、その取引先の不動産等に抵当権を設定すること

も検討すべきです。


ちなみに、担保とは、広い意味では、売主が負うべき担保責任や

損害担保責任のように、将来他人に与えるかもしれない不利益や

損害の補償となるものをいいます。


一般的に担保は、債権者が債務不履行に備えて、連帯保証や抵当権設定を

債務者から提供を受け、債権の弁済を確実にする手段になるものです。


また、担保には、連帯保証などの人的担保と抵当権や質権・譲渡担保などの

物的担保があります。


通常、担保や保証という場合は、物的担保を指すことが多いようです。


・根抵当権

根抵当権とは、継続的に発生する債務を一定の範囲内の金額まで極度額を限定した

抵当権のことです。


根抵当権で設定されていることは、枠である極度額と根抵当権が効力を発揮する

期間であり、根抵当権では、抵当権と異なり、特定の債権を担保しないことが

特徴です。


この根抵当権と抵当権の違いとしては、特定の債権を担保しているかどうかです。



また、根抵当権は、抵当権と異なり、追加融資を受けることになっても新たに根抵当権を

設定する必要がありませんので、コストや事務手続きを削減する効果もあります。


尚、根抵当権を設定して金融機関からお金を借りていた企業が、仮に借入金を全額返済

したとしても、将来の資金需要があり、その金融機関と取引を継続する場合は、

抵当権抹消する必要はありません。


根抵当権を解除したい場合は、抵当権抹消登記をする必要があり、抵当権抹消登記費用

の相場は、司法書士の報酬が1万円前後に、登録免許税と登記簿謄本取得の実費が加わ

ります。


・質権

質権とは、債権の担保である不動産か動産を債務者等から受け取り、債務者が債務

の弁済が終了するまで受け取った担保を自分の手元にとどめ、弁済がされない場合は、

担保を競売をする等により他の債権者より優先して弁済を受けることができる権利

のことです。


質権は、法的担保物権の一種です。


この質権と抵当権の違いは、担保となる動産や不動産を、実際に相手に渡すか

どうかであり、抵当権の場合は、担保となる動産や不動産を相手に渡す必要

はありません。


尚、マイホームを住宅ローンを利用して購入した場合は、必ず火災保険に加入

することが義務付けられています。


金融機関は、担保となっている住宅が火災に合って、ローンの回収が不能となる

事態を回避する為、火災保険金がローンの返済に優先的に支払われるように

火災保険の質権設定を行っています。


火災保険の質権設定とは、マイホームを購入する際に金融機関の住宅ローンを

利用した場合に、金融機関が、ローンの返済が完済するまで火災保険証券を預かり、

火災保険金請求権に質権をつけていることです。


火災保険の質権設定は、住宅ローンの担保ということです。


この火災保険の質権設定がされる理由は、担保となっている住宅が火災に合って、

ローンの回収が不能となる事態を回避する為、火災保険金がローンの返済に優先的に

支払われるようにする為です。


また、金融機関が火災保険の質権設定をする際は、住宅ローンを申し込んだ人から

質権設定の承諾書を貰う事になっています。


住宅ローンを組んだ場合に必ず火災保険の質権設定をされるわけではなく、

金融機関によっては、住宅ローンを利用しても火災保険の質権設定が必須では

ないところもあります。


火災保険の質権設定がされた場合は、金融機関の同意を得ずに損害保険である

火災保険を解約することができなくなります。


尚、マイホームを売却した場合は、そのマイホームに掛けていた火災保険も解約

することになり、先払いしている火災保険料が返金されることになります。


火災保険の質権設定がされている場合は、マイホームの売却代金で住宅ローンを

完済した後に、金融機関から火災保険証券が返却されますので、火災保険の解約手続き

ができるのは、決済日以降ということになります。


ちなみに、マイホームの火災保険料の返金金額は、マイホームを購入してから短期間で

売却した場合には、10万円前後、返金される場合もありますので、マイホームを売却

した場合は、火災保険の解約手続きを忘れずにするべきでしょう。